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京都地方裁判所 昭和52年(ワ)933号 判決 1979年5月31日

原告

森千代子

ほか四名

被告

猪俣次雄

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

原告ら

求める裁判

被告は原告森千代子に対し二〇四万一、七九三円とうち一九〇万八、四六〇円に対する昭和四八年七月七日以降、うち一三万三、三三三円に対する本判決言渡日の翌日以降各年五分の割合による金員を支払え。

被告はその余の原告らに対し各一〇二万八九七円とうち九五万四、二三〇円に対する昭和四八年七月七日以降、うち六万六、六六七円に対する本判決言渡日の翌日以降各年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

仮執行宣言

請求原因

一  本件交通事故の発生

亡森敏雄は、つぎの交通事故により傷害を受けた。

事故発生日時 昭和四八年七月六日午前七時三〇分頃

事故の場所 名古屋市西区秩父通り一丁目一番地先路上

加害車 普通乗用車(名古屋五の五二〇八号)

右運転者 被告

二  傷害

亡敏雄は本件事故により左脛腓骨複雑骨折、左側頭部挫傷、頭蓋骨骨折などの傷害を受けた。

三  責任

被告は、亡敏雄が事故の場所の横断歩道を青信号で歩行中、前方不注視の過失により本件事故を発生させたもので、本件事故につき不法行為の責任を負うべきである。

また、被告は、加害車を自己のために運行の用に供しているのであるから、本件事故につき自賠法三条の責任を負うべきである。

四  損害

亡敏雄は、本件交通事故により、つぎの損害を蒙つた。

1  休業による損害 二一〇万円

亡敏雄は鉄工所を経営し、月平均一〇万円の収入を得ていたが、本件事故のため無収入となつた。

事故発生日から昭和五〇年四月八日(亡敏雄死亡)まで二一月分二一〇万円の収入を得られず、損害を蒙つたものである。

2  治療費 三五万五、八三七円

京都府立医科大学付属病院の分 二〇万五、四四八円

猪子病院の分 一五万〇、三八九円

右いずれも健康保険の三割負担分

3  付添費 三七万八、九四八円

昭和四八年七月六日から一三日までの間一日二、〇四八円のほか交通費など二万二、九四八円

昭和四八年七月一四日から昭和四九年一月一三日までの間一七八日、原告千代子が付添一日二〇〇〇円

計三五万六、〇〇〇円

4  入院雑費 七万五、二〇〇円

入院日数一八八日 一日四〇〇円

5  装具代 四万六、七〇〇円

6  松葉づえ 一、五〇〇円

7  慰藉料など 二七七万七、〇〇〇円

亡敏雄は、右傷害のため、昭和四八年七月六日から昭和四八年八月九日まで猪子病院に入院、同月一〇日から昭和四九年一月一三日まで前記附属病院に入院し、さらに、翌一四日から七月九日まで同病院に通院したものである。そして、亡敏雄は、一足の脛関節の著しい障害をのこし、これは自賠法施行令にいう第一〇級の障害にあたる。

入院治療による慰藉料 一二〇万円

後遺症による慰藉料 一〇一万円

後遺症障害一〇級にともなう得べかりし利益 五六万七、〇〇〇円

労働能力喪失率 一〇〇分の二七

平均月収 一〇万円

期間 二一月間

100,000×21×27/100=567,000

8  弁護士報酬 四〇万円

原告らは本件訴訟追行のため弁護士を代理人に選任して報酬四〇万円の出損がある。

以上の合計は六一三万五、一八五円である。

五  原告千代子は亡敏雄の妻で、その余の原告らは亡敏雄の子であり、亡訴外人を相続したものである。

六  原告らは、亡敏雄の右損害のうち六一二万五、三八五円をその相続分に応じて、被告に対して請求するものである。したがつて、被告に対して、原告千代子は二〇四万一、七九三円とうち一九〇万八、四六〇円に対する本件事故発生日の翌日である昭和四八年七月七日以降、うち一三万三、三三三円に対する本判決言渡日の翌日以降いずれも民事法定利率たる年五分の割合による遅延損害金の、その余の原告らは各一〇二万八九七円とうち九五万四、二三〇円に対する同じく昭和四八年七月七日以降、うち六万六、六六七円に対する本判決言渡日の翌日以降いずれも民事法定利率たる年五分の割合による遅延損害金の各支払いを求める。

被告主張に対する答弁

一  被告主張一の事実は否認する。

二  同二の時効の主張は争う。

三  同三の主張は争う。

原告らの主張

原告千代子は、被告に対し昭和五一年七月二日頃到達の内容証明郵便をもつて、本件交通事故による損害を賠償すべき旨を催告し、同月一一日に本訴を提起しているので、時効は中断している。

被告

求める裁判

主文同旨

答弁

一  原告主張の請求原因一の事実は認める。

二  同二の事実は不知。

三  同三のうち、被告が加害車を自己のために運行の用に供していたことは認めるが、その余の事実は否認する。

四  同四の事実は不知。

五  同五の事実は争う。

主張

一  免責

被告は、時速約三〇粁をもつて、青信号を確認のうえ、本件交差点に進行しようとしたところ、歩道上に南方に向いて立つている亡敏雄を発見したが、亡敏雄において横断歩道を横断する様子はなく、南方に歩き出したので、横断しないものと判断し、同速度をもつて交差点を渡り、横断歩道を越した附近に来たとき、前方約四米にいた亡敏雄が突如として車道へ跳び込むような恰好で入つたので、ブレーキをかけるいとまもなく、僅かにハンドルを右に切つただけで亡敏雄に衝突したものである。このような場合、自動車運転者としては応急措置により事故を回避することは不可能であり、亡敏雄の一方的過失というほかはない。これに反し、被告は制限速度内で運行し信号に従い交差点に入り、自動車運転者としての注意義務を怠らなかつたものである。かつ、加害車に機能上の欠陥又は機能の障害もなかつたのである。したがつて、被告は自賠法の責任を負わない。

二  時効

原告らの損害賠償請求権は、本件事故発生日から三年後である昭和五一年七月六日の経過により時効消滅している。

三  過失相殺

かりに、被告に責任があるものとしても、右一のように亡敏雄にも本件交通事故の発生につき重大な過失があるので、損害額を定めるのにあたり、これを斟酌すべきである。ちなみに、本件の場合、過失割合は亡敏雄八〇パーセント、被告二〇パーセントが適当である。

原告らの主張に対する答弁

原告千代子からその頃内容証明郵便を受領したことは認めるが、その内容は、本件事故につき速やかに示談に入りたいので御来宅願いたいというのであり、これをもつて民法一五三条所定の催告とは言えない。

理由

一  原告主張の請求原因一の事実と被告が加害車を自己のために運行の用に供していたことは当事者間に争いがない。

二  成立に争いのない乙二号証の一および二ならびに被告本人尋問の結果によれば、

1  本件交通事故発生場所附近は、制限速度が時速三〇粁で、東西に通ずる片側一〇・五米、中央に幅二米の緑地帯のある市道環状線と南北の幅員七米の市道とが交わつている交差点があり、交通信号燈も設置されており、両道路にいずれも歩道があり、かつ、交差点の南北双方にある東西に通ずる両横断歩道の幅員は四米であつた。

2  被告は、北から南に向つて時速三〇粁をもつて進行し、交差点手前約二〇〇米の地点のとき対面交通信号が青色であるのを確認し、また、交差点北側横断歩道の手前では、前方四三米先の、交差点南側の横断歩道の手前の歩道上で、横断歩道を渡る気配もなく、立つている亡敏雄を発見した。

3  被告は、交通信号もいまだ青色であつたので、そのまま同速度をもつて交差点をわたり南進したところ、南側横断歩道の手前の地点で、左前四・七米先の歩道までゆつくりと歩いてきた亡敏雄が、突然横断歩道南側線辺りの車道にポンと跳び込むような恰好で片足を踏み込んできたので、クラクシヨンを鳴らして注意を喚起することも、また、ブレーキをかけて急停車するいとまもなく、右にハンドルを切つたが、およばず、亡訴外人に衝突したものである。

ことが認定でき、右認定に反する原告本人千代子および剣治の尋問結果はいずれも採用しない。

三  右認定によれば、被告は制限速度範囲内の時速三〇粁をもつて、対面信号が青色であるのを確認のうえ、交差点内に進行したものであり、この点につき交通法規違反の点はなく、また、あらかじめ亡敏雄が歩道上に立つているのを認めていたものの、亡訴外人の動作から車道に入りこむことが予想されなかつたのに、突然、亡敏雄が車の動向に注意を払わずに、車道内に入りこんできたものであるから、被告として本件事故の発生を避けることができなかつたものと推測でき、このような本件事故の責任を被告に負わすことは、要するに難きを強いることになり、事故発生の原因は全く亡敏雄の過失によるもので、被告に過失はないものといわなければならない。

また、被告本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨によれば、加害車は事故の半年前に車体検査を受けており、特に構造上の欠陥も、機能上の障害もなかつたことが認められる。

四  以上によれば、被告は、本件交通事故につき不法行為の責任を負わないことは勿論、自賠法三条による責任をも負うべきいわれのないことが明らかである。

よつて、原告らの本訴請求は、その余の点につき判断をするまでもなく失当であるから、これを棄却し、訴訟費用につき民訴法八九条、九三条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小北陽三)

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